おまえの痛みは俺の痛みだ
狂乱を深めつつある女いてそれでも俺は友達である
昼間には昼間の色の溝がある夜は素直に眠るに限る
おまえには暖かい昼があるのだろうそう思えれば幸せである
こんなにもおまえのことを痛いほど罰と罪との夜は嘘つき
酷薄のおまえの腕に十年の痛い小雪が降っては沁みる
夕暮れに縁もゆかりもないけれど坂を越えればおまえの家だ
おまえさえよければ花の降る夜に泣ける話を尽きるまでする
狂乱を深めつつある女いてそれでも俺は友達である
昼間には昼間の色の溝がある夜は素直に眠るに限る
おまえには暖かい昼があるのだろうそう思えれば幸せである
こんなにもおまえのことを痛いほど罰と罪との夜は嘘つき
酷薄のおまえの腕に十年の痛い小雪が降っては沁みる
夕暮れに縁もゆかりもないけれど坂を越えればおまえの家だ
おまえさえよければ花の降る夜に泣ける話を尽きるまでする
089:巻 きみの指が渦巻きみたいに盛り付けたそうめんを食う華やいだ夜
090:薔薇 薄緑の薔薇を選んだ天鵞絨の肌のお前と海を見に行く
091:暖 暖かな海を見下ろすこの午後は杏の花が降りかかる午後
092:届 きみの手は小さいままで薔薇を持つ届いてるか愛ならぬ愛
093:ナイフ きみを乗せバイクは夜の街を裂く ナイフみたいにズタズタに裂く
094:進 リュックには薔薇の花束どんなにか進入禁止の愛であっても
095:翼 今僕に翼はないが地を伝う魔物になっておまえと走る
096:留守 留守電におまえの声があった夜逢いたいとだけ 空に満月
097:静 きみの部屋に静寂があるどうしても入ってゆけない形のままに
098:未来 未来などぼくにはなくておまえとはただこの今をわかちあいたい
099:動 あの街の動物園のライオンとぼくら二人はプライドである
100:マラソン マラソンする女の腿に日が射して君に逢いたい休日が来る
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081:洗濯 僕たちは洗濯物を干したまま夜になるまで愛し続けた
082:罠 笑顔など罠にすぎない若者よ少女の顔を見ていけない
083:キャベツ この僕はキャベツ畑で引き抜かれ泥付のままおまえに遭った
084:林 森林の葉のざわめきで立ち消えた愛のことばを打ち捨てて抱く
085:胸騒ぎ 警鐘のつもりであるか防災のニュースは胸騒ぎだけを残して終わる
086:占 大国に占領された街角で怨みは幼きその子らに降る
087:計画 少年は銃の乱射を計画し黄色いシャツをただ脱ぎ捨てた
088:食 食うことは生きることだと少年の売りし土産をひとつだけ買う
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071:次元 つぼみさえうす桃色の三次元だ ボクの中にも春は伸びてる
072:インク インク瓶の底にくすんだ青がある空に沈めた思い出みたい
073:額 黒縁の眼鏡はもうすぐ出来上がるぼくの小さな額縁として
074:麻酔 情報は麻酔であるか大量に春の眠りを引き連れてくる
075:続 続かないドラマとしての愛欲を飲み干すためのコーヒーである
076:リズム いつもおまえは夜のリズムでこのぼくの肌を染めてはそのまま眠る
077:櫛 櫛で梳くおまえの髪から昨晩のぼくの煙草の香が落ちてくる
078:携帯 離別とはその面影を携帯する地獄であるときみに教わる
079:ぬいぐるみ 私などただのぬいぐるみ冷え切ったお前の胸を温めて寝る
080:書 遠くには飛行機雲がまっすぐにあるのだきみに「サヨナラ」と書く
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おいお前長子たる者正月に梔子色のきんとんを食え
サラミなどくれてやるから吾が愛を観察するな原則として
血縁があってもお前はロジャーなの私の飯は私の飯だ
私ん家眞鍋かをりがいるんだよってお前が言ったらキョッピーを着る
(黒田)
061:じゃがいも 万年の孤独に耐えた顔をして喰らうは一箇のじゃがいもである
062:風邪 風邪を病む小さなきみは熱を帯びたルビーのようだ 泣かなくていい
063:鬼 恐ろしい鬼の面ありぽろぽろと爺の口から米がこぼれる
064:科学 心とは電気であるかかの国の科学者一途に原爆を編む
065:城 おそらくは城は二代で崩れ去るわが国であれかの国であれ
066:消 飽くこともなく舟を漕げこの朝消え去る月の方角は西
067:スーツ ぼくらみな病理の色のスーツ着て青い空気を胸に吸い込む
068:四 紅白のスープで食べる四川鍋よ僕らはいつもすれ違ってる
069:花束 記念日に三千余円の花束をきみに贈ろう愛してるから
070:曲 めでたければ焼き鳥を喰うという曲折がジャングルジムに降ってきたのさ
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051:泣きぼくろ きみの書く「。」の代わりの「.」は泣きぼくろだねサヨナラ昨日
052:螺旋 人の世は上昇をする螺旋なり足下に同じ過ちがある
053:髪 真昼間をぼくは一人で歩くだけこの春風で髪を染めたい
054:靴下 靴下は昨夜の私の悲しみの形のまんまにせつない青だ
055:ラーメン 生き延びるただそのためにこの昼は君が作ったラーメンを喰う
056:松 松戸まできみを送ってその帰り海まで少しの街に降り立つ
057:制服 川原には桜草あり制服の少女の歩く匂いのように
058:剣 大国の剣の前に慟哭す群集の影は砂塵へ入る
059:十字 君の胸に金の小さな十字あり罪にもならぬ溜め息をつく
060:影 群れあそぶおのこらの影乱雑でこの砂浜に秋の波来る
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041:迷 迷わずにアクセルを踏むこの坂は空に続いているようだから
042:官僚 官僚は公園の西に住んでいて見下ろすような上階にいる
043:馬 まっすぐに跳馬に走る少女いて脚は虚空のコンパスになる
044:香 香水は着けないはずおまえから何かの匂いが漂う夜だ
045:パズル 青空が一辺たりないパズルなど捨ててしまえばよかったのかも
046:泥 青い葉の汁をお前に擦り付けて泥にまみれて眠るのだろう
047:大和 たたなづく柔肌を抱く敷島の大和の山に桜咲く頃
048:袖 袖の端を掴んで歩くその癖は似合わないからもうやめてくれ
049:ワイン 取り置きし“Chateau Pichon Longueville Contesse de Laland 1990”は最高のワインであった とこしえである
050:変 思い出の品をいくつか火に落とす吾の小さき地獄変なり
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031:盗 とりあえず盗んだミカンを投げ上げて雲の切れ間を見つけた午後だ
032:乾電池 時計から転がり出でた乾電池は転がってゆくいつかの方へ
033:魚 深海の魚は静かに深海へ僕は孤独の褥の中へ
034:背中 球児らよ!敗れた者の背中には報いにならぬ落日である
035:禁 禁じよう酒もバイクもセックスも お前が好きだと百ぺん言おう
036:探偵 雅彦は愛する妻の探偵の身上調査を読んでしまった
037:汗 きみの汗は僕の芯まで沁み透るたとえどんなに愛はなくても
038:横浜 横浜は高速道路に切り取られ大佛次郎館に雨が降り出す
039:紫 紫に陽の出る気配をきみと見るレモンジュースはとても冷たい
040:おとうと 孝則はつまりは僕のおとうとできみを介した血縁になる
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021:うたた寝 また人が死んだのだろうサイレンの遠鳴りを聞きうたた寝をする
022:弓 いつか見た弓形の月がビルの上にあるのに僕は君とはいない
023:うさぎ いつのまに門の上には雪うさぎ少年の手の大きさである
024:チョコレート 渋谷にてチョコレート買うどれもみな苦味が強く素敵な味だ
025:泳 この街を泳ぎきるには酔いすぎて立ちすくむには幸せすぎる
026:蜘蛛 面影の背に蜘蛛の刺青彫る消息すらも知らないけれど
027:液体 バス停に少女が一人立っていて見知らぬ名前の液体を飲む
028:母 夕暮れに飛び来る鳥の数ほどを分母と定め愛してあげる
029:ならずもの 100km/hの速度で君を奪い去るならずものなりあの日の吾は
030:橋 吾の行くいたるところに戻橋ルサンチマンの街は雪空
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011:都 予報-雪 現実は雨 ジャンパーの都知事の書いた『弟』を読む
012:メガホン ブニュエルはメガホンで叫ぶか繰り返す欲望の波叶えられずに
013:焦 コーラ二杯飲み乾したあとの君の汗は焦げた匂いで滴ってくる
014:主義 「愛してる?」「うん、愛してる。でも私、昔の人と寝ない主義なの」
015:友 孝則は友人であるその前に昔の女の夫でもある
016:たそがれ 麻美ひとりたそがれている降りそそぐネオンの色を背景にして
017:陸 陸に住む獣のうちで誰よりも酷薄である今日の私は
018:教室 教室で抱き合ってみたあの頃の君の匂いはシトラスだった
019:アラビア アラビアの音楽なのかコーヒーは乾いた喉を乾かして落つ
020:楽 吾が猫は楽々とした寝姿で果ててしまった君に寄り添う
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001:声 甘い声の女を抱いた車窓にも苦しいほどの余韻が絡む
002:色 紅梅の花は血の色次々に庭の隅にて咲いてとぼれる
003:つぼみ 君はまたつぼみのような指先で遠慮もなしに僕を愛した
004:淡 今日からは青い背びれの淡水魚行き場のなさをさらして生きる
005:サラダ サラダサラダレタスを二つに引きちぎる絶縁である証のために
006:時 この街に今いる人の時計みな全て等しく十二時を指す
007:発見 ささくれを発見したらゆっくりと息吐きながらその皮を剥け
008:鞄 虹色の鞄を抱いて象に乗るたとえ中身は虚無であっても
009:眠 雪の夜のきみの心音はやわらかく眠れる僕を起こしつつある
010:線路 単線の線路のわきの菫ほど小さき女を抱けば星降る
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