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February 28, 2021

月とはためく

青空がだんだんと夜になって

五色の旗

はためく空に満月

まんまるな白杯に濁酒を満たして

ただひたすらに月を呑む

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February 26, 2021

杉の梢

杉の梢に雲が絡む
それは川であったり
馬であったり
龍であったりする
大樹に向かい私の足が根になるとき
私は蒼天の
川に遊び
天翔ける風となり
未知なるものの微笑みを知る

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昼間の月

昼間の月が山から出てくる
満月に近い間は
遠くて明るい


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February 25, 2021

突風

砂塵がもうもうと上がる
町ひとつが燃え上がるようだ
夕景
しばらくして車がガタガタと揺れる
土の渦がフロントガラスの向こうを通り過ぎる
渦、渦。
もうもうと

風が通り過ぎる


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February 23, 2021

美しい女


先日、本屋へ行った。
ご贔屓の作家の旧作が文庫になったのを知ったからである。
お目当ての一冊の場所を確認すると
せっかくなので
呼ばれた順に本を手に取って立ち読みをした。
寝しなに読むのにちょうどいいもう数冊を探したかったのだ。

しばらく読み耽っていると
歳の頃二十代前半の
髪を少しだけ明るく染めた女性が僕の横で本を手にした。
時節柄、大きな白いマスクで顔は見えない。
百六十センチを超えるだろう彼女の視線は
僕の唇の丈である。

彼女は僕のすぐ前の書棚に興味があるらしい。
私は本をしまうとその場を離れた。

新潮文庫
講談社文庫
本棚を行き来すると少し遅れて彼女が来る

知り合いだろうか
いや覚えがない。
角川文庫
創元社SF文庫

彼女はスマホを取り出し
何かを調べながら僕のそばにくる。

ちくま文庫
岩波文庫
エピクロスを手にすると彼女の姿が消えた

よし
と思ってしばらく読んで、さっきの本を
と思うと
彼女は僕の正面の新書コーナーにいた。

慌てて雑誌のコーナーに。
ここなら大丈夫と
角川の『短歌』を眺めていると
数冊を手にした彼女は僕の横で『文学界』を手に取った。

中程にあった気鋭の数首は
その時
もうすでに彼女の声であり、吐息であった。

本を閉じる指にははっきり彼女の体温があった。

僕はまたも本を置くと
グルメ雑誌のコーナーに歩く。

平積みの雑誌をペラペラ
それを置くと、棚の向こう側には彼女の
紺色の事務服っぽいスカートとカーキーのダウンの裾があった。

今見ていた老舗の煮込みも銘店のおでんも
ちょっと工夫されたおかずの数々も全部彼女の手料理であることに気がつく。
実にこなれたいい匂いが僕の空間を満たす。
僕の目の前の徳利の本数だけが増えていく。
美容雑誌を読んでいる彼女を横目で見る

仕事帰りなのだろう、地味なスニーカーを履いている。
紙とインクの匂いはいつのまにか彼女の髪と肌の匂いだった。

僕はお目当ての一冊だけを手にレジにたどり着いた。
慌てた手つきで支払いを済ますと
僕はそそくさと店を出た。

当然、あいさつも会釈もなく
彼女とは離ればなれになった。

十年も愛の暮らしをしていたような時間が
あの本屋にはあった。

見知らぬ彼女は美しかった。

知的で穏和な視線以外何も知らない。
だが
彼女が美しくないとしたなら、
僕は誰を美しいと認めればいいのだろう。

 

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瀧の音がする


雪解けだろうか

それとも

凍りついた瀧の裏側が動き始めたのだろうか


いずれにしても

寒い冬にあるとき

人はあたたかな春を待つ

つまりはこの瀧の音が

春を招き 冬を追いやることを切望する。


人は常に

渇望と呪いを同時に抱く。

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February 22, 2021

春の日

春になると

あたたかい

おひさまが日差しを背負わせてくれる

味わいたいのはあたたかなスープで

抱きしめたいのは大切な体温

あたたかな一日である

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February 21, 2021

コーヒー

プレスで濃いめに淹れると香りが鈍くなり

適量をドリップで淹れると

いい匂いが立ち込めてくる

豆の焦げた匂いに部屋中を支配されたいなら

濃くない方がいいのだ

ただ濃い方がふと思い出した時に戻り香がある

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February 19, 2021

ふゆのはな

あなたはなぜ葉をむらさきに染めてまで

凍てた地面に命をはびこらせてまで

この寒い冬に咲くのだ

痛いだろう

葉も茎も花も


でもあなたが今咲いていることで

私は生きている

いっしょの陽をあびて

いっしょの地面に生きて

あなたといることで


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こってりカレーライス

ここのウリはこってりカレー

ぽってりしていて具はないの

っていうかみんなとけてる

沸かさないように

焦がさないように

朝からずっと煮て

ほぐして

漉して

ハンバーグ仕込んで

カツ肉の筋切りして

サラダの野菜をカットして

おいしいお米でご飯炊いて

もう五十年も毎日そんな暮らしをしている。

その中の一杯を週に一度

僕は食べている

という幸せ

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February 18, 2021

ことば

饒舌な彼女の言葉をメモに起こしてみる

初めはほらこんな具合

きれいだ

でもだんだんと文字が乱れて

筆記体

草書体

ついには単語と矢印のチャートになって

絵記号

になって

図示されて

絵になってしまった

言葉って難しいや

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February 17, 2021

杉の肌

杉の木の地肌には

落雷の焼け跡があって

炎の枝を広げたその後に

彼は大きな枝をまた伸ばした

彼の肌には苔のいい匂いがあって

失ったてっぺんを補うくらいの広い枝を

私の上でざわざわと音を立てて揺らした

何度も甲高い鳥のいくつもの声が空から降った

抱きしめる以外に私は愛の言葉を持たなかった

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February 15, 2021

雪 三好達治 引用

太郎を眠らせ、太郎の屋根に雪ふりつむ。

次郎を眠らせ、次郎の屋根に雪ふりつむ。

しんしん

しんしんと

ふりやまぬ雪は

そのとき、

道子の屋根にも

春子の屋根にもふっていて、

静かな静かな雪のよるは

町の子、山の子の眠りとなる。

でも、その夜を彼は知らない。

ぼくはそれを、

ただ見ていただけだ。


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February 13, 2021

富士山(新年詩2021)

一富士二鷹三茄子

一富士二鷹三茄子

親の意見と茄子の花は

千に一つの仇もない

春新月

花爛漫

曇天の夜

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February 12, 2021

肉団子

中華街で食う

春節の肉団子は旨い

肉をこねて

揚げて

煮込んで

茶色の大きなかたまりに

春の息吹が押し込まれてる

たっぷりとした汁の中で

白菜やら

筍やら

春雨やらの旨味を吸って

まんまるな獅子頭

でも今日は行けない

春が欲しいだけなのに


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February 10, 2021

冬の終わり

春が来るらしい

誰かが

わたしの肩を

抱きしめているような温みがあり

天と大地の鼓動が聞こえる


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February 09, 2021

つぼみ

家に帰ったら

つぼみが

いくつか咲いていた

とてもさみしい

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リンゴのケーキ

甘い甘いリンゴのケーキの

そのリンゴは

遠い遠い青森県から来たという

北の地べたに

大切に植えられた木のたくさんの時間と

作り手の方の人生と経験と

この年にかけた手間隙と

ケーキを作った人の人生と経験と

これを作るに至った修練とが

ボクの冬のひと時を幸せにする

明日ボクは何をしたらいい


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February 08, 2021

炸裂

二十度の酒を呑むと苦しいだけだが

五十度の酒を呑むと爆発できるらしい

でもそれはあまり売れない


じゃあ炸裂が怖いのと聞くと

炸裂したい人はたくさんいるのにだ

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February 07, 2021

近所の婆さんから焼き芋をもらう
紅はるかって種類を初めて作ったとか
太い焼き芋だ
齢八十余年の初めてをいま喰っている


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February 05, 2021

冬の道に蛾が落ちてきた
大きな桑子だ
冬をやり過ごし
羽を朽ちさせた太い蛾は
冷たいアスファルトに震えていた
二月
妙に暖かい日に
それでも凍てた道路に腹と羽を震わせた蛾の
末路は知らない
あと少しで春になる
春になれば
朽ちた羽は戻るのか
細い足で
身を震わせながら道を渡る
お前の命の先には数台の車がある
おそらく死ぬのだとして
この厳冬の長い日々をお前が生きた証は何だ
車輪に轢き潰された後では聞けはすまい
今答えろ
お前の生きた証は何だ

かくて命の瞬間は長い



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February 04, 2021

濁酒

濁酒のこびりついた盃を洗うと
米粒が
棘のようで
痛い


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February 03, 2021

ないもの

雪のある山に雪がないような時は

もう一度川のせせらぎを聞いたほうがいい

どうしようもなく足元が不安な時には

遠くで鳴く犬の声を探すほうがいい

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February 02, 2021

よくころすもの

ねえ、一番多くころすものってなんだ

戦争?

それは数千万人

疫病?

うーん、それは最大数億人

天変地異?超巨大隕石とか、氷河期とか?

それは最大全人類

じゃあそれだ

うふふ


ちがうよ

じゃあなあに?

それはね、時間だよ

あはは、そうだね。全存在皆殺しだね

えへへ


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雷鳴

遠くから
常に
私の後ろを雷鳴がついてくる
ただ稲光りは私の身に起きているのであった

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